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広島高等裁判所岡山支部 昭和38年(ネ)105号 判決 1967年2月20日

控訴人兼亡末滝清野訴訟承継人 末滝磐根 外一名

被控訴人 西本伸男

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の陳述および証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示(ただし原判決二枚目六行目「同月三〇日」とあるを「同月二九日」と改める)と同一であるからこれを引用する。

被控訴人訴訟代理人は、末滝清野(一審被告)は、昭和三八年五月二七日死亡し、控訴人末滝磐根および同横山仮名子が権利義務の一切を相続により承継したと述べた。(証拠省略)

理由

一  成立に争のない甲第一号証、第二号証の一から三まで、第三号証、乙第一号証から第三号証まで、弁論の全趣旨により成立を認める甲第四号証から第六号証まで、原審証人末藤堅、同中野章太、原審および当審証人吉谷正次、同藤田明信(原審は第一回から第三回まで)の各証言、原審における被控訴人本人の供述を綜合すると、以下の事実が認められる。

(イ)  訴外岡山証券株式会社は、昭和二九年頃控訴人ら先代亡末滝美之吉から、金融の担保物件として利用する目的で、その所有である日本銀行出資証券一〇〇口券(出資一口の金額一〇〇円)一枚を、白地の譲渡証書付きで期間を定めずに、右証券の時価に対する日歩二銭または三銭の利息に相当する金員を支払う約定で借り受けた。

岡山証券は、その後右証券を他に処分したので、昭和三〇年七月一四日末滝美之吉のために、右証券に代るものとして原判決添付目録記載の出資証券(以下本件証券という)を買い入れ、日本銀行の出資者原簿および証券の名義を末滝美之吉とし、かつ、同人から前同様白地の譲渡証書を取り付けた。

(ロ)  岡山証券は、同年八月頃訴外藤田明信から四〇万円を期間一月の約定で借り受け、その担保として本件証券(時価二〇万円)と岡山証券の代表者である訴外末藤堅振出の金額二〇万円の約束手形や株券を差し入れた。

(ハ)  藤田は、同年一〇月初旬本件証券について質権の実行を岡山地方裁判所執行吏に委任し、同執行吏が民事訴訟法第五八一条の手続によつて同月二九日競売を実施し、被控訴人がこれを競落した(この事実は当事者間に争がない)。

(ニ)  右執行吏は、執行裁判所から同年一一月五日、同法第五八二条に従い本件証券の名義を被控訴人に書き替えるための手続をする権限の付与を受けたうえ、訴外証券代行株式会社を通じて日本銀行に対し、本件証券を提出して名義書換を請求したところ、日本銀行に名義書換を拒否された(この事実は当事者間に争がない)。

日本銀行が名義書換を拒否した理由は、出資者である末滝美之吉から、本件証券を他に処分したことはないから他人からの名義書換の請求に応じないようにとの願い出があり、また名義書換請求書に出資者の譲渡証書等の添付がないので、本件証券が出資者の意思に基いて流通に置かれたことを確認しえないというにある。なお、執行吏は名義書換を請求したとき譲渡証書を添付しておらず、末滝美之吉が岡山証券に差し入れた譲渡証書の譲渡人の印影は、日本銀行届出のものと相違していた。

以上の(イ)から(ニ)にいたるまでの事実によれば、岡山証券は、藤田に対する四〇万円の債務を担保するため、これよりさき末滝美之吉からその旨の承諾を得て預つていた本件証券(出資の持分)に同人の代理人として質権を設定したものであり(日本銀行法施行令第七条)、藤田がこの質権を実行し被控訴人が競落したことが認められる。

二  日本銀行法施行令第六条第一項は「出資者ハ日本銀行ノ承認ヲ経テ其ノ持分ヲ譲渡スコトヲ得」と規定しているから、日本銀行の承諾を経ないかぎり出資持分の譲渡は効力を生じないし、出資者がその持分に質権を設定する場合も日本銀行の承認を要すると解すべきであるが、右の質権設定契約について日本銀行の承認を経たとの主張立証がないから、右の質権設定契約は無効であり、無効の質権設定契約に基く競売手続において被控訴人が本件証券を競落しても、これについて何らの権利も取得しないというべきである。したがつて被控訴人は、末滝美之吉に対し譲渡につき日本銀行の承認を経るよう請求することも、したがつてまた右承認を経たとき名義書換手続をするよう請求することもできない。

被控訴人は、競落により善意無過失で本件証券を取得したと主張するが、そもそも日本銀行出資証券については、無権利者からの権利取得の場合に善意取得を認むべき法令上の根拠がない。日本銀行法施行令第六条第二項は、「出資者ノ持分ノ移転ハ取得者ノ氏名及ヒ住所ヲ出資者原簿ニ記載シカツソノ氏名ヲ出資証券ニ記載スルニアラサレハコレヲ以テ日本銀行ソノ他ノ第三者ニ対抗スルヲ得ス」とあり、かかる規定が遵守されている以上、敢えて公信の制度を採用する必要はないし、また日本銀行法、同法施行令によれば法は日本銀行出資証券が輾転流通することを予定していないことが明かである。

甲第四号証から第六号証まで、末藤、中野の各証言によれば、日本銀行出資証券は、証券に証券上の名義人の譲渡を証する書面を添付して交付する方法によつて譲渡が行われており、昭和三〇年当時証券業者が売買取引の対象としていたこと、日本銀行は譲渡証書の譲渡人の印影が届出の印影と相違する場合を除き、原則として出資持分の譲渡を承認し、名義書換に応じていたことが認められ、日本銀行法施行令第一二条には、日本銀行出資証券は公示催告の手続により無効とすることができると定められているが、これらの事実も前記判断を動かすものではない。

三  よつて、被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、これと異る原判決を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林歓一 可部恒雄 八木下巽)

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